年俸制移行の遅れと現規定の運用について
年俸制への移行についてお尋ねいたします。
現状の賃金規定はこのようになっています。
・昇給
毎年5月度(4月16日付)
・賞与計算期間
夏季:前年11月16日より当年5月15日までの半期
冬季:当年5月16日より当年11月15日までの半期
・賞与時期
夏季:毎年7月、冬季:毎年12月
ただし、都合により支給時期を変更、もしくは支給を停止することがある
ーーーーー
また、現状の年俸制への移行状況は以下のとおりです
・年俸制(評価制度込)への移行は数回、説明会を開催済み
・年俸制説明会後、従業員質問と会社回答が2度あり。質問が多く、年俸制移行への同意書は未取得
・給与の締日・支給日も15・28日から末日・翌25日に合わせて変更するため、この点についてのみ従業員より同意書を取得済み(5月半額支給、翌月より全額)
・年俸制への移行は4月予定だったが、規程の変更案が間に合わず、夏頃を予定
・昇給と賞与の通知は、毎年5月に実施(今年は年俸制移行のため通知予定なし)
・賞与はここ数年間安定して●ヶ月で、社員も期待しているし経営状況は良い
ーーーーー
そこで、以下の対応を考えています
・昇給は4月となっていたが、年俸制移行時に昇給分を遡及して加算すれば問題はないか
・夏季の賞与計算期間を終了したが、年俸制は賞与込のため、7月の賞与支給までに年俸制に移行すれば問題ないか。また、7月を超えそうな場合は、通知のうえ対応すれば問題ないか。現状の通知は必要ないか
年俸制(評価制度)移行に伴い、規程案の提示を授業員より求められています。現規程類は変更されておらず、どこに問題があるか、対応しながら進めなければならず、対応に苦慮しています。
現時点での法的なリスクや改善策、今後の進め方について、ご助言を賜りたく、何卒よろしくお願い申し上げます。
投稿日:2025/05/16 17:14 ID:QA-0152444
- ザンギエフ田中さん
- 東京都/その他メーカー(企業規模 31~50人)
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プロフェッショナル・人事会員からの回答
プロフェッショナルからの回答
年俸制は制度設計だけでなく、合意プロセスの丁寧な運営が最重要です。
ご質問いただきまして、ありがとうございます。
年俸制への移行に際し、貴社が現在直面されている課題について、労働法・労務管理の観点から以下のとおり整理し、リスクと対応策をご助言申し上げます。
1. 年俸制移行の法的留意点
(1)就業規則・労働条件の変更には合意が必要
年俸制への移行は、「賃金制度の重大な変更」に該当するため、個別同意が必須です。特に「賞与込」となると、支給額やその期待とのギャップから労使紛争の火種となり得るため、明示的な書面同意が望まれます。
対応策:
年俸制の内容を明文化した就業規則改定案を作成・周知
各従業員からの書面での同意取得(年俸制移行同意書)を行う
評価制度との連動方法も説明(昇給・降給・業績連動分)
2. ご質問への個別回答
(1)昇給の遡及について
Q:昇給は4月だったが、年俸制移行時に遡及して加算すれば問題ないか?
問題なし。ただし、「不利益変更」と誤認されないよう、
「従来の4月昇給分を年俸に反映し、遡及加算する」と明確に通知すること。
遡及分の金額明示と支給タイミングも記載。
対応策:
年俸額通知書に「年俸額は2025年4月16日付昇給分を含みます」等の文言を記載
初年度は昇給の代替措置であることを説明し、来年度以降の評価サイクルを案内
(2)賞与を含めた移行時期と通知義務について
Q:賞与計算期間は終了しているが、7月の賞与までに年俸制に移行すれば問題ないか? 7月を超えそうな場合は通知すれば問題ないか?
原則として問題なし。ただし、
賞与は慣例的支給であっても、労働条件に組み込まれているとみなされやすいため、「7月に賞与がない」「年俸に含まれる」ことを個別通知・説明・同意取得が必須。
対応策:
6月中に移行が間に合わない場合は、今夏は従来通り賞与を支給し、その後年俸制へ移行する方が安全
7月をまたぐ場合は、「最後の賞与支給」として明記し、今後は年俸に含まれる旨の説明と同意取得が必要
(3)現時点で通知は必要か?
現時点で賞与があると期待している従業員が多い状況では、通知せずに支給を停止するのは、労使トラブル・モチベーション低下のリスクが大きいです。
対応策:
少なくとも6月中旬までに「賞与は支給されない可能性がある」旨を説明し、移行スケジュールを明示すべき
3. 法的リスクの整理
リスク内容→想定される影響→対応策
従業員の同意が得られていない→無効・未移行扱い、支払請求→書面による同意取得
賞与の期待権侵害→支払請求や不満、紛争→「賞与込年俸」への説明と経過措置
昇給の時期混乱→モチベーション低下、誤解→遡及加算と明示的説明
支給日変更→混乱や信頼低下→既に同意済の点を再度周知・安心感の提供
4. 今後の進め方(ステップ案)
(1)年俸制・評価制度の制度設計完了
(2)評価基準、昇給・減額条件、固定残業制か否か等
(3)就業規則等の変更案提示
(4)規程・賃金規程・評価制度のガイドラインなど
(5)全社員向け説明会の実施
(6)FAQで出た過去の質問も反映してクリアな説明を
(7)「個別の「年俸制同意書」の取得
(8)年俸額、評価連動の有無、賞与廃止の明記
(9)移行時期の最終確定と通知
(10)7月賞与前 or 後のいずれかで最終判断
5. 年俸制同意書(ひな形の一部参考)
年俸制移行に関する同意書
私は、会社より提示された年俸制の内容(年俸額、支給方法、評価制度との連動、賞与廃止など)について十分な説明を受け、理解し、納得のうえ、これに同意します。
・年俸額:〇〇〇万円(12分割支給)
・昇給反映:2025年4月昇給分を含む
・評価制度:業績評価により翌年の年俸額に反映
・賞与:今後の賞与は年俸に含まれ、支給しないものとする
署名:
日付:
6. 総括
年俸制は制度設計だけでなく、「納得形成」=合意プロセスの丁寧な運営が最重要です。現在の対応は丁寧に進められている印象ですが、「賞与」「昇給」の取扱いとその通知・合意のステップを明確にし、6月中に一段の対応をとられることを強くお勧めします。
以上です。よろしくお願いいたします。
投稿日:2025/05/16 18:37 ID:QA-0152448
プロフェッショナルからの回答
ご質問の件
まず、規程の変更案が間に合わない原因は何なのでしょうか。
説明会まで行っているわけですから、
年俸制以後の理由と併せて、
規程改定案も準備しておかないと、どのような制度になるのかわかりません。
従業員から質問も多かったということですから、
質問に対しては、回答し、新賃金制度の規程を整備し、
移行前には、従業員からは個別合意書を取っておく必要があります。
具体的には、年俸制の給与辞令を個別に作成し、従業員さんから
署名捺印をもらっておいた方がよろしいでしょう。
また、不利益変更がある場合には、
経過措置などを検討しておく必要があります。
投稿日:2025/05/16 18:55 ID:QA-0152452
プロフェッショナルからの回答
お答えいたします
ご利用頂き有難うございます。
ご相談の件ですが、まず制度変更自体が遅れる事、かつ具体的な時期についても現状夏頃予定にはなるが未確定である事を改めて従業員に周知され理解を求められる事が必要といえます。変更時期が不明瞭であれば、制度内容がいかに整備されていてもそれ以前の問題として従業員の不信を招きかねませんので、きちんと現状を説明される事が重要です。先に7月変更と通知しておきながら、後から遅れました等というのは明らかに不誠実な対応ですし当然に避けられるべきです。
その上で、お尋ねの昇給及び賞与の措置を採られるという事であれば、いずれも変更遅れに伴い生じる措置になりますので特に問題はございません。
投稿日:2025/05/16 21:21 ID:QA-0152459
プロフェッショナルからの回答
回答いたします
ご質問について、回答いたします。
まず、年棒制移行時に際しては、
賞与を含み年棒額の内訳は、明細を作成し、個々の社員の方へ通知ください。
年棒額には、月の基本給以外の要素も入っておりますので、個々の社員に対し
て、明細の通知行為が必要となります。
以下のご質問については、いづれも可能ではあります。
|・昇給は4月となっていたが、年俸制移行時に昇給分を遡及して加算すれば
| 問題はないか
|・夏季の賞与計算期間を終了したが、年俸制は賞与込のため、7月の賞与支給
| までに年俸制に移行すれば問題ないか。また、7月を超えそうな場合は、
| 通知のうえ対応すれば問題ないか。現状の通知は必要ないか
しかしながら、上記の変更点は、社員にとっては不利益に該当するものでも
あり、会社が一方的に変更点のみを通知することは適切とは言えないものです。
背景・理由を社員説明会等を通し、丁寧に説明を行う必要があります。
また、前年まで支給されていた賞与が前年とは違った方法・タイミングで
支給されることにより、生活に支障をきたす社員が生じる可能性もあります。
特定の理由を抱える社員に対しては、会社が一時的な金銭補助を行うなど、
制度変更にともなう、アフターフォロー体制も、あわせてご検討ください。
なお、まだ規程類が整っていない点ですが、こちらは優先対応事項です。
貴社の賃金規程を変更予定日に合わせて適切に変更手続きを行う必要が
あります。
大変だとは思いますが、まずは規程類の整備を早急に行っていただき、
労働者代表(又は労働組合)に提示する機会を設けることが優先です。
投稿日:2025/05/17 08:04 ID:QA-0152466
プロフェッショナルからの回答
労働条件の変更
本件においては、年棒制への移行に関して、次のような法的リスクがあると考えられます。
1.「年棒制移行」に合意する従業員について
(1)これらの者への「年棒制適用」については、労働契約法第8条「労働者及
び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更するこ
とができる。」が法的根拠になると考えられます。
(2)この「合意」の有無については、次の旨の判例(山梨県民信用組合事件)
(最高裁 平成28年2月19日判決)が参考になると考えられます。
1)賃金は重要な労働条件であり、給与引下げに同意する旨の労働者の行為
があったとしても、これにより直ちに同意があったとみるのは適当ではな
い。
2)同意の有無については、給与引下げにより労働者にもたらされる不利益
の内容や程度、労働者がこの行為に至った経緯やその態様、この行為に先
立つ労働者への情報提供や説明内容に照らし合わせて、この行為が労働者
の自由な意思に基づいてなされたものと認めるに足りる合理的な理由が客
観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものである。
(3)本件での「合意」についても、従業員の自由な意思に基づいてなされるこ
とが必要です。しかし、4月の昇給は実施されておらず、また、例年5月の
「賞与の通知」もないことから、従業員の中には、年棒制移行に合意しな
い限り昇給・賞与は実現しないと考える者が存在する可能性があります。後
日、自由な意思ではないとして年棒制移行を無効とするよう請求がなされる
ことも考えられなくはありません。
(4)こうしたリスクを回避するためには、賃金規定に則り直ちに昇給を行うと
ともに、予め、年棒制の移行時期と賞与支給日を従業員に連絡し、年棒制移
行への合意如何にかかわらず賞与はこれに従い適正に支給されることを明確
にしておくことが必要であると考えられます。
2.「年棒制移行」に合意しない従業員について
(1)これら者への「年棒制適用」については、その法的根拠として、労働契約
法第10条「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合にお
いて、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労
働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の
内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事
情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件
は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。(以下、
略)」があげられます。
(2)これに関しては、本件の場合、次の旨の裁判例(ノイズ研究所事件)(東
京高裁 平成18年6月22日判決)(職能給から成果主義型賃金制度に移行した
ことに起因する争い)が参考になると考えられます。
1)旧賃金制度の下で支給されていた賃金額より顕著に減少することとなる
可能性があり、この点において不利益性がある。
2)主力商品の競争が激化した経営状況の中で、従業員の労働生産性を高め
て競争力を強化する高度の必要性があった。
3)従業員に対して支給する賃金原資総額を減少させるものではなく、賃金
原資の配分の仕方をより合理的なものに改めようとするものである。
4)どの従業員にも自己研鑽による職務遂行能力等の向上により昇格し、昇
給することができるという平等な機会を保障しており、かつ、人事評価制
度についても最低限度必要とされる程度の合理性を肯定し得る。
5)従業員に変更内容の概要を通知して周知に努め、一部の従業員の所属す
る労働組合との団体交渉を通じて、労使間の合意により円滑に賃金制度の
変更を行おうと努めていた。
6)それなりの緩和措置としての意義を有する経過措置が採られた。
7)以上を総合考慮するならば、上記の不利益を法的に受忍させることもや
むを得ない程度の、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであると
いわざるを得ない。
(3)本件の場合でも、就業規則の変更について、労働契約法第10条の規定に反
しており無効にすべきとの請求がなされるリスクがあると考えられます。
(4)こうしたリスクを回避するためには、上記(2)を参考にして、1)賃金
原資総額を減少させるものではない、2)従業員において平等な機会が保障
され、合理的な人事評価制度が存在する、3)労使間の合意に向けて真摯に
取り組んできた、4)緩和措置や経過措置を採っている、ことが必要である
と考えられます。
投稿日:2025/05/18 22:07 ID:QA-0152474
回答に記載されている情報は、念のため、各専門機関などでご確認の上、実践してください。
回答通りに実践して損害などを受けた場合も、『日本の人事部』事務局では一切の責任を負いません。
ご自身の責任により判断し、情報をご利用いただけますようお願いいたします。
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